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世界的に注目を集め始めている若手アーティスト9名によるグループ展「Crossing」がKOTARO NUKAGA(六本木)で開催

KOTARO NUKAGA(六本木)では、2022年 11 月 26 日(土)から 2023年1 月 28 日(土)まで、アーティスト・森本啓太のキュレーションによるグループ展「Crossing」を開催します。カナダで美術を学び、近年日本での活動を開始した森本が、北米での活動を通して出会ったアーティストに呼び掛けて実現した本展は、多様な人種やルーツ、ジェンダー、セクシュアリティをもち、世界的に注目を集め始めている若手アーティスト9名によって構成されます。

 

多岐にわたる様式・手法・メディウムで制作された彼女ら/彼らの作品に共通するのは、古今東西の美術史の正典(カノン)を縦横無尽に参照しながらも、自らの手を使って自身が生きるこの時代を物語っているという点です。

例えば森本は、光の魔術師と呼ばれたレンブラント、そしてエドワード・ホッパーらに代表される「マジック・リアリズム」など、美術史における複数の時代区分からの影響を示しながら、自動販売機や街灯、ネオンといった現代的かつローカルな情景を描いています。こうした森本のスタイルにも象徴されるように、「Crossing」に出展する同時代のアーティストたちは、伝統的な美術の系譜に自分のルーツを交差させることで、現代のヴィジョンを示しています。

アジア系アメリカ人のフェミニズム批評的な思想を基盤として、見せ物として対象化されてきた黄色人種の女性を、陶器に投影して描いてきたのが、ドミニク・ファンです。彼女の絵画はエドワード・サイードが西洋中心主義的な視点を指摘した著書『オリエンタリズム』や、フリーダ・カーロなどのシュルレアリスム絵画、そしてロココ様式等の装飾的要素などの幅広い美術と教養の知識に支えられています。水中で、大きな足とそれに踏み潰されている人型の置物を描いた「Accidentally Stepped On」は、彼女のようなアジア系アメリカ人がコロナ禍で受けた差別を思わせるものと言えるでしょう。

 

ドミニク・ファン《Accidentally Stepped On》2022ドミニク・ファン《Accidentally Stepped On》2022

ステファニー・ハイエは、オランダ黄金時代などの伝統的な様式を参照した絵画にセラミック彫刻を組み合わせた半立体的な作品で知られます。現代美術とクラフト、あるいは平面と立体といった、従来の美術におけるメディウムの境界に妨げられることなく、食べることの楽しみと消費のグロテスク、そしてモチーフの親しみやすさとその反面の不穏さや不協和を、遊び心をもって表現しています。

ステファニー・ハイエ《I pick my friends like I pick my fruit》2022ステファニー・ハイエ《I pick my friends like I pick my fruit》2022

鍾乳洞のような彫刻作品を作るハイディ・ラウは、ポルトガルの植民地であったマカオに育ち、中国とポルトガルの文化的影響を受けました。母の死後、中国の漢や秦の時代の埋葬品や道教のオブジェから影響を受け、彼女も自らの手を使うプロセスを通して母の死を悼むために粘土を用いた作品を制作しています。粘土を通して自らの精神世界に触れ、そこから導かれて生じた立体に釉薬を塗布することで光沢やグラデーションを表現し、独特のテクスチャーを作り出しています。

ハイディ・ラウ《Light Gatherert》2022ハイディ・ラウ《Light Gatherert》2022

リーリー・キンメルは自身が「ミュータント・リアリズム」と呼ぶ、夢幻的でありながら少し不気味さも漂わせる抽象画を描きます。絵画のほかに立体作品や、Tilt brush(VR描画アプリ)を使用して没入的な3D作品制作にも取り組んでいます。キンメルの作品からはバスキアやジョアン・ミロに見られるデフォルメや、サイ・トゥオンブリーのようなプリミティブな描画のスタイルの影響が感じられます。彼女が描く迷いや滲みのない明瞭な描線は、デジタルペインティングこそが子どもたちにとって身近な「お絵かき」のツールとなった現代的な絵画のテクスチャーを反映していると言えるでしょう。

リーリー・キンメル《Tête-à-Tête》2022リーリー・キンメル《Tête-à-Tête》2022

 黒人の身体をめぐる支配や搾取を問いかけるエスマ・モハムードの新作「Ebony In Ivory」は、美術の基礎訓練でよく用いられる石膏の胸像を、シアバターで、そして、アフリカ系の女性に特徴的なヘアスタイルをした若い女性をモデルに代えて制作したものです。シアバターは、西洋を中心にスキンケアやヘアケアなどに用いられていますが、その製造過程ではアフリカの女性たちが不当な労働環境に置かれています。モハムドは、大理石の台座の上に、彫刻の素材としては脆弱なシアバターで作られた胸像を置くことで、西洋中心主義的な搾取の構造を象徴しているのです。

エスマ・モハムード《TEbony In Ivory, I》2022エスマ・モハムード《TEbony In Ivory, I》2022

日系カナダ人であるアレクサ・ハタナカは、日本の生活や慣習に根付いた伝統的な天然染色や製紙、工芸などの素材や技術を用いて、受け継がれる儀式や衣装、生活用品を作り、美術作品に昇華しています。出展作品のひとつである「Yoshitaka Boiler Suits」では、漁業に従事した祖父たちが築いてきた海との親密な関係を魚拓を用いることによって表現しています。他方で、リノカット・レリーフプリントという版画技法で製作された「Looks Like Water」では、北極圏の雪の大地に現れる波状の模様を表現します。本作は雪が作りだす「波」の模様に、祖父たちが見つめてきた海の姿と、その雪が気候変動の影響でやがて海水になっていく運命を重ね合わせたイメージと言えるでしょう。

 

アレクサ・ハタナカ《Yoshitaka Boiler Suit》2021、アレクサ・ハタナカ《The Tabi》2022、 アレクサ・ハタナカ《Looks Like Water》2019アレクサ・ハタナカ《Yoshitaka Boiler Suit》2021、アレクサ・ハタナカ《The Tabi》2022、 アレクサ・ハタナカ《Looks Like Water》2019

伝統的な絵画の手法に即しながらリー・マドリガルが描くのは、子育てに関わるなかで感じた責任、恐れ、不安や愛など、人々の間で普遍的に共有されてきながらも、美術史では取り上げられてこなかった感情や、経験です。伝統的な美術やヒーローを描くエンタテインメント映画などのイメージの歴史においては「最も重要でない」とアーティスト自身さえも感じていた場面を描くことで、彼はその重要性や尊さを再確認し、鑑賞者に新たな視座をもたらします。

ラリー・マドリガル《Descendants》2022ラリー・マドリガル《Descendants》2022

グリッターやラインストーンといったドラッグ・カルチャーの素材を用いて、自身が持つフェミニニティを象徴するデヴァン・シモヤマは、友人のアンソニー(Anthony)を二重にして描いた「Anthony Doubled」で、彼ら自身のクィアネスや、アイデンティティの複層性を示します。もう一点の展示作品、「From The Night」は「花を贈る」という、普遍的かつロマンティックでありながら、その行為によって生じる約束、そしてそれを信じ続けることについて考察する作品だと言います。シモヤマが用いるグリッターという素材は、鑑賞者の動きに応じて輝きを放ちます。これは一回性の鑑賞体験を与えるものと言えるでしょう。

デヴァン・シモヤマ《Anthony Doubled》2022デヴァン・シモヤマ《Anthony Doubled》2022

■アーティスト
ドミニク・ファン
アレクサ・ハタナカ
ステファニー・ハイエ
リーリー・キンメル
ハイディ・ラウ
ラリー・マドリガル
エスマ・モハムード
デヴァン・シモヤマ
森本啓太

■開催概要
グループ展「Crossing」
会期: 2022年11月26日(土)  –  2023年1月28日(土)
開廊時間: 11:00 – 18:00 (火-土) ※日月祝休廊

■会場 KOTARO NUKAGA 六本木
〒106-0032 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2F
東京メトロ日比谷線、都営地下鉄大江戸線「六本木駅」3番出口より徒歩約3分

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